上毛新聞「視点・オピニオン21」 2015/11/26掲載

ヒトの立ち位置探る 他の生物と餌奪い合う

桐生自然観察の森でレンジャー(自然観察指導員)として、動物写真家として日々里山の自然を見つめながら過ごしております、田野芳久と申します。

このコラムでは、私が考えを巡らせている「自然の中でのヒトの立ち位置」について、鳥獣害問題も念頭にお話ししたいと思います。
  鳥獣害が問題となっている昨今、「ヒトが自然の中でどう立つか」ということを考えずして他の生物との関わりを見つめ直すことはできない、と考えるからです。

「ヒトの立ち位置」を考えるに当たり、私が大切にしている原則があります。それは「ヒトも動物だ」ということです。
  ともすればわれわれ人間は自らのことを「他の生物を超越した」もしくは「一線を画した」存在であるように考えてしまいがちです。しかし、私は「ヒトとは他の生物と同様に自然の中で生きるために奮闘する存在」だと考えます。つまり、生存するために餌を探し、食べて、寝る、そんな存在です。
  他の生物とちょっと異なるのは、「餌」の概念が単に食物だけでなく、「富」とそれにつながる「生産」も含むことぐらいでしょうか。

 では、鳥獣害の構図を農作物泥棒の代表格、ニホンザルを例にとって概観してみましょう。

 自然観察の森周辺の山林には、20~50頭のニホンザルの群れがすんでいます。このサルたちが時折、自然観察の森や付近の民家に現れます。
  冬、家々の庭先にたわわに実を付けたユズの木が点在しています。家主もユズを利用しますが、多くの実は木になりっぱなしです。そこにサルの群れがやってきます。
  普段、空腹なことが多い野生動物ですから、サルにはユズの木が宝の山のように見えるでしょう。サルたちは迷わずユズを頬張ることになるわけです。
 サルもヒトもユズを食べます。そしてユズはヒトの生産物であり、財産なのです。よって、ここにサルとヒトとの間で利害の衝突が発生します。これがいわゆる「鳥獣害」の構図です。

言ってみれば「餌の奪い合い」がヒトとサルの間で起こるのですから、闘争が起こり、ヒトが餌を確保するために他の動物たちと戦おうとするのも自然の流れと言えるでしょう。

  でも、ちょっと待ってください。われわれヒトのテクノロジーを野生動物たちとの戦いに用いれば、たやすく絶滅に追い込んでしまうでしょう。そして、ある種の生物の絶滅や極端な減少は、ヒトの暮らしにどんな影を落とすか、想像もつきません。また、生き物には等しく生きる権利があることも見過ごせません。

  では、どうするか。ここは巨大な大脳を持つ、われわれヒトの腕の見せどころです。次回は鳥獣害に対応する方法論を考えていきましょう。

 

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