上毛新聞「視点・オピニオン21」 2016/09/01掲載

自然の中に立つこと 先住の生き物に配慮を

 この夏、自然の中で思いっきり遊んだ、という方も多いのではないでしょうか。そんな方には特に、「自分はどう自然と付き合っただろう」と振り返りながらお読みいただければと思います。

 ひと昔前、自然を「遊び場」と捉えた広告を多く目にしました。確かに自然の中で過ごすのは爽快で楽しいものです。しかし、自然を単なる遊び場と捉えて良いものでしょうか。自然の中にはたくさんの生き物が生息しています。自然は生き物の街と言っても過言ではないでしょう。

 僕は、こんな経験をしたことがあります。夜の林道を1人、ヘッドランプをともしながら歩いていた時のことです。森を抜け、見通しの良い平原にやって来ると、いつの間にかたくさんの光る目に囲まれていたのです。

 いま思えば、あれはシカの群れだったのでしょう。その目すべてがこちらをじっと見つめていたのが印象的でした。その時僕は、人間が気付いていないだけで、数多くの生き物がひっそりとこちらを見つめている、ということを知りました。

 つまり、自然の中に立つということは、生き物の街=パブリックスペースの中に立っているということです。大声を出して騒げば、生き物たちは警戒します。その頻度が高くなれば、生き物の出現や行動にも影響を及ぼしかねません。最近はやりのバーベキューなども、不用意に自然の中で行えば、生き物たちは「人間は食べ物をもたらすもの」という学習をしてしまいます。

 このような状況は、新たな鳥獣害を引き起こしかねません。例えばごみ箱あさりを覚えたクマが、やがて人間の生活圏に出没を繰り返すようになり、駆除に至るという話をよく耳にします。人間の遊びは生き物たちにとって、強烈な脅威や誘惑になり得るのです。どうか、自然には人間とは異なる感覚を持った「先住者がいる」という認識で、自然と付き合っていただきたいと思います。

 あなたがそこにいて、何かをなすということが、生き物たちにとってどんな意味を持つのかをよく考えて遊びに出かけていただきたいと思います。なるべく静かに、何も取らない・残さないということに思い至るのは、難しい話ではないでしょう。また、大人数で長時間の滞在よりも少人数で短時間の滞在の方が、生き物たちに与える影響が少ないのは容易に想像できるのではないでしょうか。

 一方、私たち人間にもやりたいことがあるのですから、生き物最優先という訳にもいかないのが事実です。要はバランスであり、やりたいことの妥当性、自然に与える影響の極小化をより多くの人に考えてほしいと思います。優しく、思いやりを持って自然と付き合っていただけたら、生き物たちもきっと喜びます。

 

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