桐生タイムス「森のルーティーン・タノさんの眼」(最終回)

むかしむかし… (2017年3月4日掲載)

僕が奥日光の山野に分け入り、シカの姿を追い始めたのが今からおよそ10年前。シカをとりまく環境もこの10年で一変しました。

当時、シカの増加が明らかになり、冬の樹皮食いによる森林の荒廃など、シカの害に世間の注目が集まり始めました。そんな頃の話です。まだ、具体的な対策は打ち出されず、銃による駆除も行われていませんでした。

[写真1]を見てください。シカがカラマツの伐採現場に近づいてきました。

伐採現場に近づくニホンジカ
[写真1]

山仕事のおじさん達はチェーンソーで木を倒し、忙しく働いています。シカが顔を出すとおじさん達は何も言わずチェーンソーで若葉たっぷりのミズナラの枝を落としてやるのです。そうすると[写真2]の様にもぐもぐとシカは美味しい若葉にありつけます。

もぐもぐとミズナラの若葉をほおばるニホンジカ
[写真2]

平和な時代、こんな「共生」が成り立っていたのです。
ですから[写真3]の様な夕暮れのカラマツ林に立派なオスジカがひっそりと立つ姿も写真に収める事が出来ました。

夕暮れの森にただずむオスジカ
[写真3]

やがて銃によるシカの駆除が奥日光でも始まり、シカの警戒心は跳ね上がりました。自然の中でヒトからシカが若葉をもらう、あの頃の平和な光景を目にする事はもうないでしょう。

実は、僕は増えすぎたシカの駆除は止むを得ないという立場をとっています。
でもあの平和な時代を知っている僕は、ただ殺すのではなく、より良い方法があるはずだと信じています。

さて、僕の担当するこのコラムも今回が最終回。コラムを読んで自然に興味を持った方はぜひ身近な草原、田畑などに出かけて自然を見つめてみて下さい。そして生き物の息吹を感じてもらえたらうれしく思います。

僕はこれからも、あの平和な時代が再び来ることを夢見て、動物写真を撮り続けます。

 

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