桐生タイムス「森のルーティーン・タノさんの眼」(第5回)
待つということ (2016年8月6日掲載)
梅雨が明け、夏空がまぶしいですね。
そんな梅雨明け直後の日に、仕事で森の中にひとりで静かに立っている事がありました。
森の中にいると、つい「何かいないかな」と茂みの中に目を凝らしてしまいます。
するとカマキリの幼虫が、獲物を待っているのでしょう、葉の上でじっとしているのが目に入りました。(写真1)
時間をはかってみると、約45分その場から動きませんでした。
[写真1]
地面では、カナヘビがやってきました。こちらもやって来たところで、その場から離れません。(写真2)
[写真2]
ただ、カマキリとはスタイルが違います。そばに来た小さな生き物を時々食べながら、その場に居続けるのです。カナヘビはほぼ1時間、居続けました。
ついには僕の方が都合でその場を先に離れることになりました。
動物写真家の僕は、生き物を「待つ」のが仕事です。でも「待つ」ということに関しては動物たちが一枚上手です。
以前、日光の山中で子鹿に会ったときにも、僕に気付いた子鹿が茂みの中にしゃがんでしまい、待つこと2時間、ついに僕の方が根負けした、ということもありました。
ほんの7~8m先に居るはずなのに、気配さえ感じられないのです。
動物たちはたぶん人間と違い、シンプルに「生きる」ということを目的に生きているのでしょう。
だからなのか、「隠れる」「食べる」という事に時間がかかっても気にしない。いや、むしろ「待つ」理由があるだけで、時間の経過なんて思ってもみないのかもしれません。
自然を見つめるという事、それは僕らとは全く異なる時間感覚の持ち主たちを相手にするという事なのかもしれません。
僕たち人間は、「時間の許す範囲で」じっくりゆっくり付き合うしかなさそうです。
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