桐生タイムス「森のルーティーン・タノさんの眼」(第8回)

去りゆく者たち (2017年11月5日掲載)

 寒いと感じる日が増えてきました。
 虫の数が減り、声も小さくなっていきます。多くの虫たちは一年でその命を終え、この世から去っていきます。

 ある日、カミキリムシがヒメコウゾの木にいるのを見つけました。
 望遠レンズでのぞいてみると、様子が変なのです。「生気」が全く感じられません。
 そこで近くに寄ってみると、おそらくクワカミキリでしょう、菌に侵されて死んでいるのだと分かりました。[写真1]

菌に侵されたクワカミキリ
[写真1]

 その姿は、菌に侵されて動きの鈍る体に鞭打って、明日のためにエサを食べようとしていた、そんな風に僕には見えました。

 また別の日、ある公園の東屋でお弁当を食べようと腰を下ろすと、何やら視線を感じるのです。
 その視線の方向に目をやると、セグロアシナガバチの大群が![写真2]
 と言っても静かなもので、こちらがのぞき込んでも一匹として動きません。

球形に身を寄せるセグロアシナガバチ
[写真2]

 アシナガバチの仲間は、おおむね9月に入ると活動量が下がっていきます。新女王バチは越冬場所に移動し、働きバチ達は巣で寄り添って、やがて死を迎えるのです。
 また、何らかの理由で巣を失った場合、写真の様に集まりやすい所を見つけてじっとしているのだそうです。
 もう新女王は越冬場所に移動してしまったのでしょう、ただひっそりと、そうっと集まっているハチの集団でした。

 巣を守り、子を育て、次の世代に命を繋いで静かに最後の時を待つのですね。
 この世から去りゆく彼らの姿を見ていると、少しでも、一秒でも前へ、先へと、ただ真剣に自らの命をも繋ごうとしているように思えるのです。

 「生きる目的は生きること」である、彼ららしい姿でした。

 

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